動き始めた後は待つ|なぜ私は「急がせない」のか

一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事・杉浦孝宣

私は40年以上、不登校・高校中退・引きこもりの若者たちと向き合ってきました。

その中で強く感じていることがあります。

子どもは、動き始めた瞬間が一番大切です。

長い間、部屋から出られなかった子が、リビングに出てくる。

久しぶりに親と話す。

外へ散歩に行く。

コンビニまで行く。

たったそれだけでも、本人にとっては大きな一歩です。

しかし、多くのご家庭では、その一歩が出た瞬間に親が焦ってしまいます。

「じゃあ学校はどうするの?」

「勉強は?」

「将来は?」

これを言われた本人は、また部屋に戻ってしまうことがあります。

だから私は、保護者の方にこう伝えます。

動き始めた後は、急がせないでください。

ここからは、本人のペースを見極める支援が必要です。

お子さんが少し動き始めたご家庭へ

外出、会話、登校、面談。小さな変化が出た時こそ、親の関わり方が重要です。焦って詰める前に、今の段階を整理しましょう。

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目次

親は成果を急ぐ

これは特別な家庭だけの話ではありません。

私は40年以上、不登校や引きこもりの支援をしてきましたが、ほとんどのご家庭で同じことが起こります。

子どもが長い間、部屋に閉じこもっていた。

ところが、ある日突然、リビングに出てくる。

一緒に食事をする。

買い物に行く。

散歩に行く。

親としては嬉しいのです。

本当に嬉しい。

だからこそ、つい次を期待してしまいます。

一回外出した。

すると、

「じゃあ学校はどうするの?」
「そろそろ勉強した方がいいんじゃない?」
「将来はどう考えているの?」

と矢継ぎ早に聞いてしまう。

一回登校できた。

すると今度は、

「毎日行けるよね?」
「このまま復学できるよね?」
「遅れを取り戻さなきゃ」

という話になる。

しかし、これが失敗パターンなのです。

本人は、やっとの思いで一歩踏み出したばかりです。

まだ心の中では、

「怖い」
「不安だ」
「また失敗するかもしれない」

という気持ちと戦っています。

そこに学校や進路や将来の話を一気に持ち込まれると、本人にはプレッシャーとして伝わります。

そして再び部屋へ戻ってしまうのです。

ここからは、私たちの出番です

子どもが少し動き始めた時、親御さんにはこうお伝えしています。

ここから先のペースは、まず当機構に任せてください。

焦って口を出さないでください。

学校の話も、進路の話も、将来の話も、一度横に置いてください。

まずは本人が、

  • 外へ出ることは怖くない
  • 人と関わっても大丈夫だ
  • 自分にもできることがある
  • また少し動いてみてもいい

と思えることが大切です。

引きこもりからの回復には、本人のペースがあります。

そのペースを無視して親が急がせると、せっかく出てきた芽を踏んでしまうことになります。

だから、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)では、親御さんに対してコーチングを行い、本人への働きかけは段階を見ながら進めます。

親が先走らない。

本人の小さな変化を潰さない。

この見極めが、とても重要なのです。

「せっかく動いたのに、また部屋に戻ってしまった」方へ

原因は本人の甘えだけではありません。親が成果を急ぎすぎた結果、本人がプレッシャーを感じて後退することがあります。

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種を植えたら、すぐに果実はできない

私はよく、農業に例えてお話しします。

親は、種を植えたら、すぐに果実が欲しくなります。

芽が出た瞬間に、

「もう実がなるよね?」

と言いたくなる。

しかし、現実は違います。

まず土を整える。

肥料を与える。

水をやる。

日当たりを見る。

芽が出る。

葉が育つ。

花が咲く。

そして、ようやく実がなる。

不登校や引きこもりからの回復も同じです。

リビングに出てきた。

外出できた。

人と話せた。

それは、まだ芽が出た段階です。

果実ではありません。

だから焦らない。

だから急がせない。

動き始めた後は待つ。

これが、私が40年以上の現場で学んできた支援の基本です。

魚釣りと同じです

私は、不登校や引きこもり支援を魚釣りにも例えます。

魚がいない場所で竿を出しても釣れません。

まず場所を探す。

餌を変える。

時間を読む。

仕掛けを打つ。

そして、魚がかかるまで待つ。

ここまでは支援者の仕事です。

しかし、魚がかかった瞬間に慌てて引っ張ると、糸が切れたり、魚が逃げたりします。

子どもも同じです。

やっと動き始めた。

やっと話し始めた。

やっと外へ出た。

その瞬間に親が強く引っ張ると、本人は逃げます。

だから、動き始めた後は待つ。

焦らず、本人の力で次の一歩を出せるように見守る。

ただし、これは放置ではありません。

仕掛けを打った後の待機です。

何もしない見守りとは違います。

親の関わり方を整え、必要な環境を用意し、本人が動けるタイミングを見極める。

それがJADAの支援です。

カイト君の事例|急がせなかったから動けた

カイト君は、中学1年生で不登校となり、引きこもり状態になりました。

親とも話さず、お風呂にも入らず、部屋にこもる日々が続きました。

こうした状態になると、親御さんはどうしても焦ります。

「学校に戻さなければ」

「勉強が遅れる」

「このまま将来どうなるのか」

当然の不安です。

しかし、本人にとっては、いきなり学校復帰を求められること自体が大きなプレッシャーになります。

そこで必要なのは、段階を踏むことです。

家庭訪問で信頼関係を作る。

同世代との関わりを作る。

フリースクールや通信制高校など、本人が動ける環境を整える。

その積み重ねの先に、カイト君は通信制高校へ進み、最終的には自衛隊という道を選びました。

急がせなかったから、本人が自分で歩き出せたのです。

Y子さんの事例|一歩ずつでいい

Y子さんは、中学2年生から不登校になり、その後10年間引きこもりました。

24歳でご相談をいただいた時、すぐに社会復帰できたわけではありません。

まずは小さな外出。

次に人との関わり。

学び直し。

アルバイト。

通信制高校。

短大。

保育士資格。

そして公務員。

一気に変わったわけではありません。

一歩ずつです。

しかし、その一歩を積み重ねることで人生は変わりました。

だから私は、保護者の方に伝えます。

芽が出た瞬間に、果実を求めないでください。

一歩出たら、次の一歩を急がせないでください。

本人のペースを見極めながら、必要な支援を入れていくことが大切です。

成功事例を詳しく知りたい方へ

Y子さん、カイト君、リョウタ君、カズキ君など、不登校・引きこもりから再出発した実例をまとめています。

▶ 成功事例17選を読む

支援哲学①・②もあわせてお読みください

この支援哲学シリーズでは、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事・杉浦孝宣が、40年以上の現場で学んできた考え方をお伝えしています。

  • 支援哲学①|最初は何もないものです
    なぜ私は未来を先に見るのか。子どもは変われるという確信について書きました。
  • 支援哲学②|本当の失敗は何もやらない事だ
    なぜ私は「見守るだけ」を勧めないのか。行動することの大切さについて書きました。

第一話では「未来は創るもの」とお伝えしました。

第二話では「行動しなければ未来は変わらない」とお伝えしました。

そして第三話でお伝えしたいのは、

動き始めた後は、急がせてはいけない

ということです。

不登校・引きこもりで悩む保護者の方へ

お子さんが動かない時も、動き始めた時も、親の関わり方はとても重要です。焦って詰める前に、まずは状態を整理しましょう。

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関連動画|社会的自律とは何か

以下の動画では、私が40年以上・1万人以上の支援実践から見えてきた「社会的自律」についてお話ししています。

【どうすれば世界中から不登校・引きこもりをなくせるか】40年で1万人支援して気付いたこと

復学をゴールとせず、自ら考え、行動し、社会参加へ向かうために必要な経験や教育について語っています。

▶ 動画を見る

支援哲学③|動き始めた後は待つ

不登校や引きこもり支援では、最初の一歩を作ることも大切です。

しかし、その一歩が出た後に、親が焦らないことも同じくらい大切です。

一回外に出たからといって、すぐに毎日外出できるわけではありません。

一回登校したからといって、すぐに完全復学できるわけではありません。

一回話せたからといって、すぐに将来の話ができるわけではありません。

芽が出たら、育てる。

魚がかかったら、焦らず待つ。

本人が動き始めたら、急がせず、次の一歩を見極める。

動き始めた後は待つ。

これが、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事・杉浦孝宣が40年以上の現場でたどり着いた支援哲学です。

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著者プロフィール

杉浦孝宣(すぎうら・たかのぶ)

一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事。認定NPO法人高卒支援会創業者。

小学3年生で不登校を経験。その後アメリカ留学を経て、40年以上にわたり不登校・高校中退・引きこもり支援に従事。

これまで1万人以上の相談に携わり、家庭訪問、生活改善合宿、学生寮、学び直し支援、就労支援などを通じて、多くの若者の社会的自律を支援してきた。

JADAでは「真の自律(Autonomy)」をゴールとし、JADA Stage OSと7つの自律支援ステップを体系化している。

著書に『不登校・ひきこもりの9割は治せる』『高校中退 不登校でも引きこもりでもやり直せる』『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』などがある。

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杉浦 孝宣
杉浦孝宣(すぎうら・たかのぶ)は、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事、認定NPO法人高卒支援会創業者。自身も小学3年生で不登校を経験し、その体験を原点に40年以上にわたり不登校・高校中退・引きこもり支援に携わってきた。 これまで1万人以上の相談に対応し、家庭訪問、生活改善合宿、学生寮、学び直し支援、就労支援などを通じて、多くの若者の社会的自律を支援している。 「子どもは必ず変われる」を信念に、学校復帰だけをゴールとせず、一人ひとりが自ら考え、行動し、社会に参加していく「社会的自律(Autonomy)」を目指した支援を実践している。 著書に『不登校・ひきこもりの9割は治せる』『高校中退 不登校でも引きこもりでもやり直せる』『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』など。近年は一般社団法人未来自律支援機構(JADA)を通じて、JADA Stage OSと7つの自律支援ステップを体系化し、国内外へ発信している。 台湾版著書も出版され、教育・福祉・行政・企業・国際社会との連携を通じて、若者の社会的自律支援モデルの普及に取り組んでいる。
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