「お風呂に入らない」中1男子が自衛隊員になるまで|7か月引きこもったカイト君の再出発

一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事 杉浦孝宣

「うちの子、中学生なのに全然お風呂に入らないんです」

「髪もボサボサ、爪も伸びっぱなし。ゲームばかりで、このまま引きこもりになるのではないかと不安です」

こうしたご相談は、決して珍しくありません。

お風呂に入らない、歯を磨かない、髪や爪を放置する、部屋から出てこない。

これは単なる反抗期ではなく、JADA Stage OSでいうステージ3以上の引きこもり状態に進んでいるサインである場合があります。

今回は、中学1年生で不登校となり、7か月以上引きこもったカイト君が、家庭訪問、ピアサポート、生活改善、通信制高校を経て、自衛隊員として社会に出るまでの実話をお伝えします。

同じような再出発の実例は、こちらにもまとめています。

▶ JADA成功事例17選はこちら

お子さんがお風呂に入らない、部屋から出てこない方へ

お風呂の問題だけを見るのではなく、生活リズム、親子関係、外出状況を含めてステージ判定することが大切です。

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目次

中学1年のゴールデンウィーク明けから始まった不登校

カイト君が学校へ行けなくなったのは、中学1年生のゴールデンウィーク明けでした。

きっかけは英語でした。

授業についていけなくなり、自信を失い、少しずつ学校から足が遠のいていきました。

最初は、ご両親も「少し休めば戻れる」と考えていました。

しかし、学校を休む日が増え、やがて部屋に閉じこもるようになりました。

昼夜逆転、ゲーム中心の生活、お風呂に入らない、歯も磨かない、髪や爪は伸び放題。

部屋からは異臭がする。

親子の会話は途絶え、3食は親が部屋の前にそっと置くような状態になっていきました。

JADA Stage OSではステージ3から4の状態

カイト君の状態をJADA Stage OSで見ると、当初はステージ3、その後ステージ4に近い状態へ進んでいました。

ステージ3とは、単なる不登校ではありません。

学校へ行かないだけでなく、親との会話が減り、生活リズムが崩れ、外出が少なくなり、家庭内で孤立し始める段階です。

  • 不登校が長期化していた
  • 親との会話がほとんどなかった
  • 昼夜逆転していた
  • ゲーム中心の生活だった
  • お風呂に入らなかった
  • 歯を磨かなかった
  • 髪や爪が伸び放題だった
  • 部屋から出てこなかった
  • 家族が部屋に近づくと強く拒否した

この段階になると、「学校へ行きなさい」と言うだけでは動きません。

むしろ、学校の話をするほど本人は反発し、さらに部屋へこもることがあります。

ここで必要なのは、登校刺激ではなく、生活の立て直しと信頼関係の再構築です。

この考え方は、支援哲学④でも詳しくお伝えしています。

▶ 支援哲学④|親だけで抱え込まない

ご両親の意見は分かれていた

カイト君のご家庭では、ご両親の考え方にも違いがありました。

お母様は、こう考えていました。

「せっかく入学した私立中学。辞めさせたくない。もう少し待てば元に戻るかもしれない」

一方、お父様はこう訴えていました。

「学校よりも、まずはこの引きこもり状態を何とかしてほしい。今のままでは生活すら成り立たない」

どちらも、お子さんを思う気持ちから出た言葉です。

しかし方向性が揃わないままでは、支援は進みません。

私、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事・杉浦孝宣は、毎月の保護者面談でご両親のお気持ちを丁寧に聴き取りました。

そして少しずつ、

「まず生活を立て直すことが、将来の進路にもつながる」

という共通理解にたどり着いていただきました。

家庭訪問支援による信頼関係構築|会話ゼロから始まった支援

カイト君のご家庭では、親が部屋の扉をノックしようものなら、エアガンを向けるほど本人は追い詰められていました。

完全に家庭内で孤立した状態です。

私はご両親への面談と親コーチングを担当し、まず家庭内の方向性を整えることに集中しました。

一方、現場のアウトリーチ支援には、JPC(JADA公認自律支援ペアレンツコーチ)として500回以上の家庭訪問・アウトリーチ支援を経験してきた大倉が入りました。

大倉は、不登校・引きこもりだけでなく、家庭内暴力や強い拒否反応があるケースにも数多く対応してきたベテラン支援員です。

しかし、最初から順調だったわけではありません。

カイト君は一切の会話を拒否し、部屋から出てくる気配もありませんでした。

そこで大倉は、部屋の前で話しかけたり、置き手紙を残したりしながら、毎回少しずつメッセージを届け続けました。

返事はありません。

それでも支援は止めませんでした。

その後、ピアサポートとして投入したのが、当時高校生インターンだった「ウッチー」ことアツヤ君です。

アツヤ君自身も、かつて不登校・引きこもりを経験し、支援を受けながら社会復帰した若者でした。

現在は高級モード業界へ就職し、自立した社会人として活躍しています。

▶ ウッチーこと、アツヤ君の成功事例はこちら

カイト君にとってアツヤ君は、ただの支援者ではありませんでした。

年齢の近いお兄さん。

同じように苦しい時期を乗り越えてきた先輩。

そして、

「自分も変われるかもしれない」

と思わせてくれる存在でした。

最初は返事もなく、顔も見せてくれませんでした。

それでも大倉とアツヤ君は諦めず、何度も家庭訪問を続けました。

ドアが開いた日|そこから本当の支援が始まった

ある日、私たちは事前に本人へ伝えたうえで、鍵屋さんを呼び、部屋の扉を開ける決断をしました。

「無理やり連れ出すためではない」

「君と話したいからだ」

そのメッセージを、スタッフから本人に伝え続けました。

ドアが開き、久しぶりにカイト君の顔を見たご両親は涙を流しました。

しかし、そこからが本当のスタートでした。

最初は部屋の入口まで。

次は部屋の中へ。

そして会話へ。

少しずつ言葉が増え、表情がやわらぎ、アツヤ君とのやりとりの中で笑顔も見られるようになりました。

カイト君が変わり始めたのは、説教されたからではありません。

親に無理やり動かされたからでもありません。

親コーチング。

アウトリーチ支援。

ピアサポート。

JADAの3つの支援が重なったことで、ようやく変化の扉が開いたのです。

親だけで抱え込んでいませんか?

ステージ3以上になると、親の声かけだけでは動かないことがあります。家庭訪問やピアサポートなど、本人とつながる第三者支援が必要になる場合があります。

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生活習慣を立て直す7か月の道のり

カイト君の支援では、いきなり学校復帰を目指したわけではありません。

まず取り組んだのは、生活の立て直しでした。

お風呂、睡眠、食事、掃除、会話。

これらを一つずつ整えていきました。

1. お風呂への抵抗をなくす

最初は、シャワーという言葉にも拒否反応がありました。

そこでスタッフは、強制ではなく「できたら報告してね」というスタンスを取りました。

本人の関心に合わせて小さな約束を作り、できたら認める。

最初は週1回のシャワーから始まりました。

大切なのは、いきなり毎日入らせることではありません。

本人が「できた」と思える経験を積むことです。

2. 昼夜逆転を整える

当初、カイト君は午前3時頃に寝て、昼過ぎに起きる生活でした。

そこで、朝の声かけ、自然光、短い散歩を組み合わせていきました。

最初の1か月は無視されても続けました。

2か月目には、朝の散歩に誘える日が出てきました。

3か月目には、午前中に起きる日が増えていきました。

3. 食事を整える

最初は夜中に冷蔵庫をあさり、1日1食のような状態でした。

そこで、決まった時間に温かい食事を用意することから始めました。

会話がなくても構いません。

同じ時間に食事がある。

それだけでも生活の軸になります。

やがてスタッフと一緒に食べる日が生まれ、少しずつ家族との食卓にも近づいていきました。

4. 部屋を掃除する

カイト君の部屋は、最初はゴミがたまり、異臭がする状態でした。

スタッフが「一緒にやろうか」と声をかけ、少しずつ掃除を始めました。

最初はスタッフが手伝う。

次に本人が少し動く。

そして5か月目には、カイト君自身が「部屋をきれいにしたい」と言うようになりました。

5. 小さな成功体験を重ねる

アツヤ君とのボードゲーム。

eスポーツでの交流。

YouTube動画を一緒に見ること。

好きな話題から会話を始めること。

こうした小さな関わりの中で、カイト君の心のスイッチが少しずつ入っていきました。

「できたね」

「また明日やってみよう」

この繰り返しが、自信の回復につながりました。

この考え方は、支援哲学③「動き始めた後は待つ」にもつながります。

▶ 支援哲学③|動き始めた後は待つ

フリースクールから通信制高校へ

7か月ほど支援を続けた頃、カイト君はフリースクールに通えるようになりました。

最初は週1日からです。

それでも、朝起きて、外へ出て、人と会う。

この一歩は非常に大きなものでした。

その後、ご両親との話し合いを重ね、通信制高校への進学を提案しました。

形式的な進学ではありません。

生活のリズムを継続し、学び直しができる場所として、通信制高校と生活環境を整えていったのです。

「学校には戻りたくなかった。でも社会には戻りたかった」

高校生になった頃、カイト君は保護者会でこう話しました。

「僕は、もう学校に戻ることは考えていませんでした」

「でも、社会には戻りたいと思っていました」

「どうやって戻ればいいかわからなかったけれど、方法を教えてもらえたのがありがたかったです」

この言葉には、カイト君の本音が表れています。

不登校や引きこもりの子どもは、必ずしも「何もしたくない」わけではありません。

本当は社会に戻りたい。

でも戻り方がわからない。

だからこそ、支援者が道筋を示す必要があるのです。

引きこもった過去を強みに変える

高校3年生になったある日、カイト君は「将来、公務員になりたい」と話し始めました。

私は、港区役所の知人である課長を紹介しました。

彼は最初、少し戸惑っていました。

「髪、セットしてないのに……どうしよう」

そんなことを気にしていました。

しかし、その後、真剣な表情でこう尋ねました。

「自分の引きこもり経験って、マイナスじゃないですか?」

「それを面接でどう話せば、強みに変えられますか?」

その時、課長さんはこう言ってくださいました。

「君がどれだけの壁を乗り越えたか。そこをちゃんと語れる人間こそ、公務員に向いているよ」

その言葉を聞いたカイト君の顔には、これまで見たことのない光が宿っていました。

自衛隊員として社会へ

その後、カイト君は通信制高校を卒業しました。

そして、自衛隊へ進みました。

かつて、お風呂に入らず、部屋から出ず、親とも話さなかった中1男子です。

しかし今では、社会の一員として働いています。

これは奇跡ではありません。

親コーチング、家庭訪問、ピアサポート、生活改善、学び直し、社会参加。

それらを一つずつ積み重ねた結果です。

10年引きこもりから公務員になったY子さんも、同じように小さな一歩から再出発しました。

▶ Y子さんの成功事例はこちら

カイト君に実施した7つの自律支援ステップ

カイト君の回復は、現在JADAが体系化している7つの自律支援ステップと重なります。

  • STEP1|ステージ判定:ステージ3〜4の引きこもり状態を確認
  • STEP2|親コーチング:ご両親の方向性をそろえる
  • STEP3|家庭訪問支援:JPC大倉によるアウトリーチ
  • STEP4|ピアサポート:アツヤ君との関係づくり
  • STEP5|生活改善:入浴、睡眠、食事、掃除を整える
  • STEP6|学び直し:フリースクール、通信制高校へ
  • STEP7|社会的自律:自衛隊員として社会参加

回復には順番があります。

そして、その順番を間違えないことが大切です。

お風呂に入らない子に、親が今できること

お風呂に入らない状態を見て、親御さんは焦ります。

「汚い」

「だらしない」

「このままでどうするの」

そう言いたくなる気持ちはわかります。

しかし、本当に見るべきなのは、お風呂だけではありません。

生活リズム、親子の会話、外出状況、食事、部屋の状態、ゲームやスマホの時間。

これらを総合的に見る必要があります。

  • 親と話さない
  • 昼夜逆転している
  • 部屋から出ない
  • お風呂に入らない
  • 食事を部屋で取っている
  • ゲーム中心の生活になっている

この状態が続いているなら、JADA Stage OSではステージ3以上の可能性があります。

その場合、親だけで抱え込まず、早めに相談してください。

お子さんの状態を一緒に整理しませんか?

「お風呂に入らない」は、生活リズムや親子関係の崩れを示すサインかもしれません。まずは現在のステージを整理しましょう。

▶ LINE無料相談はこちら

カイト君だけではありません

カイト君のように、不登校・引きこもりから再出発した子どもたちは他にもいます。

  • Y子さん:10年引きこもりから公務員へ
  • リョウタ君:家庭訪問から航空自衛隊へ
  • カズキ君:中高一貫校不登校・家庭内暴力から区役所勤務へ
  • G君:高校中退・引きこもりから美大合格へ
  • アツヤ君:不登校・引きこもりから高級モード業界へ

詳しくは成功事例17選をご覧ください。

▶ 成功事例17選はこちら

支援哲学シリーズもあわせてお読みください

カイト君の事例は、JADAの支援哲学そのものです。

最初は何もないように見えても、1ミリの可能性があれば、そこから道は開けます。

そして、親だけで抱え込まず、必要な支援を入れることで、子どもは変わるきっかけをつかめます。

まとめ|「お風呂に入らない」は入り口にすぎない

カイト君の問題は、お風呂に入らないことだけではありませんでした。

本当の問題は、生活リズムが崩れ、親子の会話が途絶え、社会との接点が失われていたことです。

しかし、そこからでも再出発はできました。

親だけで抱え込まず、ステージ判定を行い、必要な支援を入れる。

そして小さな成功体験を積み重ねる。

その先に、社会的自律があります。

カイト君は、そのことを教えてくれた大切な成功事例です。


一般社団法人未来自律支援機構(JADA)
代表理事 杉浦孝宣

40年以上にわたり不登校・高校中退・引きこもり支援に従事。1万人以上の相談実績をもとに、JADA Stage OSと7つの自律支援ステップを体系化し、全国のご家庭を支援している。

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杉浦 孝宣
杉浦孝宣(すぎうら・たかのぶ)は、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事、認定NPO法人高卒支援会創業者。自身も小学3年生で不登校を経験し、その体験を原点に40年以上にわたり不登校・高校中退・引きこもり支援に携わってきた。 これまで1万人以上の相談に対応し、家庭訪問、生活改善合宿、学生寮、学び直し支援、就労支援などを通じて、多くの若者の社会的自律を支援している。 「子どもは必ず変われる」を信念に、学校復帰だけをゴールとせず、一人ひとりが自ら考え、行動し、社会に参加していく「社会的自律(Autonomy)」を目指した支援を実践している。 著書に『不登校・ひきこもりの9割は治せる』『高校中退 不登校でも引きこもりでもやり直せる』『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』など。近年は一般社団法人未来自律支援機構(JADA)を通じて、JADA Stage OSと7つの自律支援ステップを体系化し、国内外へ発信している。 台湾版著書も出版され、教育・福祉・行政・企業・国際社会との連携を通じて、若者の社会的自律支援モデルの普及に取り組んでいる。
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