「死にたい」と言っていた中学生が政治家を目指すまで|S君が立ち直れた7つの転機

一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事 杉浦孝宣

「学校なんかどうでもいいのです」

初回面談で、S君の育ての叔母さんはそう話しました。

「先生の本やホームページを見て勉強しました。学校へ戻ることではなく、社会に出て通用する人間になることが大事だと書いてありました。ブログも読みました。ここだと思いました」

その言葉を聞いた時、私は強い覚悟を感じました。

S君は小学2年から6年まで児童相談所が関与していました。

中学1年から不登校。

昼夜逆転。

ゲーム依存。

家庭内暴力。

希死念慮。

そして育ての叔母に包丁を向けるという深刻な状況にまで至っていました。

ご家庭は地方の小さな町にあり、町全体が小さなコミュニティのような環境でした。

私は面談の中で、このままではS君は立ち直れないと判断しました。

家庭訪問には交通費も支援費用もかかります。

それでも叔母さんは、どうしても家庭訪問を希望されました。

そこで私は、当時大学生だったコウタ君を、S君の話し相手、ピアサポート役として訪問させることにしました。

コウタ君も、かつて不登校・引きこもりを経験した杉浦の教え子です。

その後、自衛隊へ進み、2025年4月からは幹部候補生として勤務しています。

当時の私は、S君が政治経済学部へ進学し、将来は政治家を目指すようになるとは想像していませんでした。

しかし今振り返ると、育ての叔母さんの覚悟と、コウタ君との出会いこそが、S君の人生を変える最初の転機だったのだと思います。

お子さんの状態を一度整理してみませんか?

不登校と引きこもりでは対応が異なります。まずは現在の状態をステージ判定で確認することが大切です。

▶ LINEでステージ判定する

目次

S君のプロフィール

  • 小学2年から6年まで児童相談所が関与
  • 中学1年から不登校
  • ステージ判定4相当
  • 昼夜逆転
  • ゲーム依存
  • 家庭内暴力
  • 希死念慮
  • 人間不信
  • 育ての叔母に包丁を向けるほど深刻化

この状態は、単なる不登校ではありません。

JADAの5ステージ判定で見ると、ステージ4相当の引きこもり状態でした。

見守るだけでは解決が難しく、親コーチング、家庭訪問、ピアサポート、生活改善、学び直し、社会参加を組み合わせる必要がありました。

「死にたい」と言っていた中学生

S君は、学校に行けなくなっただけではありません。

人を信じられなくなっていました。

ゲームだけが居場所。

昼夜逆転。

家族との会話もほとんどない。

暴言や暴力もありました。

将来について聞かれると、「死にたい」という言葉が返ってくる状態でした。

保護者にとって、これほど苦しい状況はありません。

しかし、私は40年以上の支援現場で何度も見てきました。

今、希望が見えない子でも、適切な支援と出会いによって変わることがあります。

S君も、その一人でした。

転機① ステージ判定|見守りでは解決しない状態を見極める

最初に必要だったのは、S君の状態を正しく整理することでした。

不登校なのか。

引きこもりなのか。

親との会話はあるのか。

昼夜逆転はあるのか。

家庭内暴力はあるのか。

外出できるのか。

JADAでは、こうした状態を5ステージで判定します。

S君は、ステージ4相当の引きこもり状態でした。

ステージ3以上になると、本人だけの力で動き出すことが難しくなります。

この段階で「見守りましょう」と言っているだけでは、状況が長期化する可能性があります。

まず状態を客観的に整理し、必要な支援を組み立てることが大切です。

▶ 支援哲学②|本当の失敗は何もやらない事だ

転機② 育ての叔母への親コーチング|保護者会そのものがコーチングだった

JADAと高卒支援会では毎月、不登校保護者会を開催しています。

これは単なる講演会ではありません。

保護者会そのものが、親コーチングの場です。

保護者会では、立ち直った本人や保護者が実際の体験を発表します。

  • 10年引きこもりから公務員になったY子さん
  • 中学1年から不登校となり自衛隊へ進んだカイト君
  • 1年半引きこもりからJA内定を獲得したショータ君
  • 航空自衛隊へ進んだリョウタ君

本人や保護者が、なぜ立ち直れたのか、親は何を変えたのか、どこで失敗したのかを率直に語ります。

その発表を聞いた保護者が質問します。

私はそのやり取りを見ながら、質問を投げかけ、考え方を整理し、具体的な行動へ落とし込んでいきます。

これがJADAの親コーチングです。

S君の育ての叔母さんは、この保護者会に熱心に参加されていました。

毎回のように手を挙げ、本人や保護者に質問をしていました。

「どうやって子どもとの関係を修復したのですか?」

「暴言や暴力があった時はどうしましたか?」

「いつから変化が見えましたか?」

誰よりも真剣でした。

私はその姿を見ながら、S君が変わる前に、まず叔母さん自身が変わり始めていると感じていました。

不登校や引きこもり支援では、子どもより先に保護者が学び、関わり方を変えた家庭ほど改善が早い傾向があります。

S君の再出発は、家庭訪問から始まったのではありません。

育ての叔母さんが学び始めた瞬間から始まっていたのです。

▶ 支援哲学⑥|親が変われば子どもも変わる

転機③ 家庭訪問(アウトリーチ支援)|最初は屋根にまで逃げた

本人は相談機関へ来ませんでした。

そこで私たちは家庭訪問(アウトリーチ支援)を開始しました。

しかし、最初からうまくいったわけではありません。

引きこもり状態の子どもたちは、第三者に対して強い拒否反応を示すことがあります。

S君も例外ではありませんでした。

私が派遣したコウタ君と初めて会った時、S君は家の中を逃げ回りました。

部屋から部屋へ。

階段を駆け上がり、ついには屋根にまで登って逃げたそうです。

普通の人なら、「嫌がっているのだから、もうやめよう」と思うかもしれません。

しかし、私は長年の経験から知っています。

これは単なる拒絶ではありません。

どう接していいか分からないというサインでもあるのです。

そこで私たちは無理に説得しませんでした。

学校の話もしません。

将来の話もしません。

ただ会い続けました。

そして、ある日転機が訪れます。

S君が部屋で寝ている時、コウタ君がいつものように訪問しました。

目を覚ましたS君は、そこにコウタ君がいることに気づきました。

しかし、その日は逃げませんでした。

屋根にも登りませんでした。

家中を走り回ることもしませんでした。

ただ、その場にいたのです。

今振り返れば、それが最初の一歩でした。

それ以降、少しずつ一緒に映画を見るようになりました。

ゲームをするようになりました。

会話らしい会話も増えていきました。

▶ 支援哲学⑤|子どもは人との出会いで変わる

転機④ コウタ君とのピアサポート|未来のロールモデルとの出会い

S君に大きな影響を与えたのが、杉浦の教え子であるコウタ君でした。

コウタ君自身も、元不登校・元引きこもりの経験者です。

しかし、その後立ち直り、自衛隊へ進みました。

2025年4月からは、自衛隊幹部候補生として勤務しています。

S君にとって、大人の支援者の言葉よりも、同じように苦しんだ少し年上の先輩の存在が大きかったのです。

「自分だけじゃない」

「こんな未来もあるんだ」

そう思えたことが、S君の再出発の大きなきっかけになりました。

JADAがピアサポートを重視する理由はここにあります。

不登校や引きこもりを経験した先輩自身が、次の世代の希望になるのです。

関連動画|コウタ君の成功事例

引きこもりから自衛隊幹部候補生へ!不登校高校生の成功ストーリー https://www.youtube.com/embed/xDjzyFZvSOs

転機⑤ 生活改善合宿|「もう二度と行きたくない」が成功だった

S君にとって大きな転機の一つが、高卒支援会の生活改善合宿でした。

この合宿は、私が企画したものです。

不登校や引きこもりの子どもたちを長年見てきて分かったことがあります。

生活を変えなければ、人生は変わらない。

そこで私はスタッフに、次のような方針を出していました。

  • 携帯電話がつながらない場所を選ぶこと
  • 生活に必要なことはゼロから子どもたちにやってもらうこと
  • 『7つの習慣』を使い、ミッションステートメントを書かせること
  • 一つだけ非日常の体験を入れること

実際の合宿では、朝決まった時間に起きます。

食事を作ります。

後片付けをします。

掃除をします。

仲間と協力します。

自分の将来について考えます。

そして最後に、ラフティング、スキューバダイビング、パラグライダーなど、普段では体験できない挑戦を行います。

一見すると普通のことです。

しかし、昼夜逆転、ゲーム漬け、引きこもり状態の子どもたちにとっては、この合宿は想像以上に過酷です。

実際、S君は合宿から帰ってきた後、こう言いました。

「もう二度と行きたくない」

私は思わず笑ってしまいました。

なぜなら、それは合宿が成功した証拠だったからです。

本人は二度と行きたくない。

でも、同じ生活には戻りたくない。

その結果、S君はフリースクールへ毎日通学するようになりました。

合宿が人生を変えたわけではありません。

しかし、「今のままでは嫌だ」と本人が気づくきっかけになったのです。

転機⑥ 学び直し|大学へ行きたいと言い出した日

S君は高卒支援会へ通い始めました。

しかし、通い始めたからといって、すぐに劇的な変化があったわけではありません。

実際には高校2年生になる頃まで、ほとんど会話ができませんでした。

周囲から見れば、学校には来ているだけ。

それでも、その裏では大きな変化が起きていました。

生活リズムは整っていました。

アルバイトも続いていました。

人との関わりも増えていました。

つまり、引きこもりはすでに解決していたのです。

JADAの7つの自律支援ステップで言えば、STEP5の学び直しだけではなく、STEP6の社会参加まで進んでいました。

そんなある日、保護者会で育ての叔母さんが興奮気味に私へ話しかけてきました。

「先生、聞いてください」

「うちの子が大学へ行きたいって言い出したんです」

「あの子がですよ」

「信じられません」

私は驚きませんでした。

むしろ、やっと来たかと思いました。

引きこもりの子どもたちは、突然変わるわけではありません。

生活が整う。

人と関わる。

アルバイトをする。

自信がつく。

そして初めて、将来を考え始めるのです。

ただし、S君には大きな課題がありました。

長年学習から離れていたため、基礎学力がほとんど身についていなかったのです。

私は一人の卒業生を思い出しました。

かつて不登校を経験し、その後、明治大学へ進学したI君です。

私はI君に連絡しました。

「お前に頼みがある」

「S君の勉強を基礎から教えてやってほしい」

するとI君は笑いながら言いました。

「いいですけど、なんで俺なんすか?」

私は即答しました。

「お前は昔バカだったから適任だ」

「お前が丁寧に教えれば、あいつは伸びる」

もちろん冗談交じりです。

しかし本気でもありました。

優秀な先生より、同じように苦労した先輩の方が伝わることがあります。

I君は快く引き受けてくれました。

そしてS君は、元不登校の先輩から基礎を学び直し、少しずつ学力を伸ばしていきました。

かつて支援された子どもが、次の世代を支える。

これもJADAの支援文化です。

転機⑦ 焼肉屋のアルバイト|STEP6「社会参加」がS君を変えた

S君を最も変えたのは、焼肉屋でのアルバイトだったかもしれません。

それまでのS君は、人との関わりを避け続けていました。

しかし、焼肉屋で働き始めてから状況は大きく変わります。

  • お客様に挨拶する
  • 先輩や店長と会話する
  • 時間通りに出勤する
  • ミスをしたら謝る
  • 頑張れば感謝される
  • 自分で働いて得た給料を受け取る

学校では得られなかった成功体験を積み重ねていきました。

JADAの7つの自律支援ステップでは、これをSTEP6「社会参加」と呼んでいます。

私は高卒支援会を創業した頃から、一つの鉄則を持っていました。

高校卒業前に社会を経験させる。

不登校や引きこもりを経験した子どもたちは、学校には通えても、社会に出る準備ができていないことがあります。

だから私は昔からスタッフに、アルバイトを経験させるように伝えてきました。

できれば飲食店です。

飲食店は厳しい仕事です。

お客様と接する。

先輩との人間関係がある。

忙しい時間帯がある。

失敗すれば叱られることもある。

しかし、その分だけ成長も大きいのです。

引きこもりの子どもたちにとって、飲食店は社会との接点を学ぶ最高の場所の一つです。

S君もこのアルバイトを通じて、大きく成長しました。

私は今でも確信しています。

引きこもりの子どもたちに必要なのは、家の中で将来を考え続けることではありません。

まず一歩外へ出て、人と関わり、働き、社会を体験することです。

その小さな一歩が、社会的自律への大きな一歩になります。

現在は政治経済学部で学び、政治家を目指している

現在、S君は政治経済学部で学んでいます。

そして将来は政治家を目指しています。

私は長年、不登校や引きこもりの子どもたちを支援してきましたが、政治家になりたいと言い出した子は多くありません。

かつてのS君は、「死にたい」と口にしていました。

人と話すことも苦手でした。

高卒支援会へ通い始めても、高校2年生頃まではほとんど会話ができませんでした。

そんな彼が今、社会の仕組みに興味を持ち、政治や行政について学び、社会をより良くしたいと考えるようになっています。

現在は大学生活を送りながら、JADA・高卒支援会の学生インターンとしても活動しています。

後輩たちの支援に関わり、自らの経験を伝え、次の世代の不登校や引きこもりの子どもたちの力になろうとしています。

私は今後、S君に様々な社会経験を積ませたいと考えています。

私たちが過去に取り組んだ、通信制高校サポート校生徒の学割定期廃止問題への対応

行政や政治家へ働きかけ、多くの子どもたちの通学機会を守るために動いた経験。

議員会館への同行。

政策提言の現場。

行政との交渉の場。

そうした現場を、S君にも実際に見てもらう予定です。

教科書だけでは学べないことがあります。

社会を変えるとはどういうことか。

政策が子どもたちの人生にどのような影響を与えるのか。

不登校や引きこもりの当事者だったからこそ見える課題があります。

私はS君に、単なる政治家ではなく、実際に困っている人の気持ちが分かる政治家になってほしいと思っています。

動画で語るS君

私は正直、動画でここまで話せるとは思っていませんでした。

高卒支援会へ通い始めても、高校2年頃までほとんど話せなかったS君が、自分の言葉で、過去と今、そして未来を語っています。

これこそが、S君の変化を物語っています。

家庭内暴力・引きこもりから政治家を目指す大学生へ

S君が証明したJADAの7つの自律支援ステップ

  1. STEP1|ステージ判定:ステージ4相当の引きこもり状態を把握
  2. STEP2|親コーチング:育ての叔母さんが保護者会で学び続けた
  3. STEP3|家庭訪問:本人が相談に来られないため支援者が訪問
  4. STEP3|ピアサポート:コウタ君との出会いが信頼関係を生んだ
  5. STEP4|生活改善合宿:生活を変え、毎日通学するきっかけになった
  6. STEP5|学び直し:高卒支援会で基礎から学び直した
  7. STEP6|社会参加:焼肉屋アルバイトで社会との接点を取り戻した
  8. STEP7|社会的自律:政治経済学部へ進学し、政治家を目指している

S君の事例は、JADAの7つの自律支援ステップがすべて機能した代表的な成功事例です。

ステージ3以上の引きこもりは、見守るだけでは長期化することがあります。

親コーチング、家庭訪問、ピアサポートなど、状態に応じた支援が必要です。

▶ 不登校・引きこもり成功事例17選を見る

保護者の皆様へ

今、お子さんが不登校でも、引きこもりでも、ゲーム依存でも、家庭内暴力があっても、未来まで決まったわけではありません。

S君もかつては「死にたい」と言っていました。

しかし今は、「政治家になりたい」と言っています。

子どもは変われます。

ただし、変化には順番があります。

ステージ判定。

親コーチング。

家庭訪問。

ピアサポート。

生活改善。

学び直し。

社会参加。

そして社会的自律。

この順番を間違えず、親だけで抱え込まず、適切な支援を入れることが大切です。

お子さんは今、どのステージでしょうか?

まずは現状を整理することから始めてください。

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筆者プロフィール

一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事 杉浦孝宣

不登校・引きこもり支援40年以上。これまで1万人以上の子どもたちと保護者を支援。JADA Stage OS(5ステージ判定)およびJADA Autonomy OS(7つの自律支援ステップ)を体系化し、全国の家庭に対して親コーチング、家庭訪問(アウトリーチ支援)、ピアサポート、自律支援を行っている。

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杉浦 孝宣
杉浦孝宣(すぎうら・たかのぶ)は、一般社団法人未来自律支援機構(JADA)代表理事、認定NPO法人高卒支援会創業者。自身も小学3年生で不登校を経験し、その体験を原点に40年以上にわたり不登校・高校中退・引きこもり支援に携わってきた。 これまで1万人以上の相談に対応し、家庭訪問、生活改善合宿、学生寮、学び直し支援、就労支援などを通じて、多くの若者の社会的自律を支援している。 「子どもは必ず変われる」を信念に、学校復帰だけをゴールとせず、一人ひとりが自ら考え、行動し、社会に参加していく「社会的自律(Autonomy)」を目指した支援を実践している。 著書に『不登校・ひきこもりの9割は治せる』『高校中退 不登校でも引きこもりでもやり直せる』『もう悩まない!不登校・ひきこもりの9割は解決できる』など。近年は一般社団法人未来自律支援機構(JADA)を通じて、JADA Stage OSと7つの自律支援ステップを体系化し、国内外へ発信している。 台湾版著書も出版され、教育・福祉・行政・企業・国際社会との連携を通じて、若者の社会的自律支援モデルの普及に取り組んでいる。
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